――新卒で博報堂に入り、さまざまなキャリアを積み重ねて今に至る伊藤さん。まず、博報堂に入社した理由を教えてください。
きっかけは、大学・大学院時代に専攻していた行動科学に関する論文ですね。読んでいた論文の1つを書かれたのが、当時、博報堂の研究開発局にいた方だったんですよ。それまでは、大学院卒業後も研究者の道を進む方向で考えていたんですが、その論文を読んで、これまでやってきた行動科学の知識をベースにしながら、広告やマーケティングに関する仕事をする手もあるなと思い、入社を決めました。
そんな意識だったので、当初は、社会人を経験したあとに研究者の道に進むというキャリアも頭にあったんです。その論文を書かれた方も、のちに博士号を取って大学教授になっていて、私もずっと社会人として働くイメージを持っていたわけではなく、10年ぐらいで辞めるかなくらいの気持ちだったのですが、社会人の道を歩み続けています。
――博報堂に入られたあと、最初に配属されたのは経営企画局だったとのことですが、配属が決まったときの気持ちと、当時の仕事内容についてお聞かせいただけますか?
同期が120人ぐらいいるなかで、毎年5人くらいコーポレート部門に配属されるんです。まさかその中の1人になるとは正直思っていなかったですね。シミュレーションやマーケ領域の仕事をすることになるのかなと勝手に思っていたので。そこから大きく外れた配属だったので、最初の1、2年は本気で転職を考えていました(笑)
経営企画局に配属後は、業績管理や予算編成などの仕事を行いました。入社2年目で博報堂DYホールディングスに異動したあとも、グループ経理財務局主計部で同じような仕事をやっていました。
――転職も検討されていたということでしたが、当時の仕事には何かおもしろみを感じていましたか?
3つありますね。1つは、社長や役員の日々の会話や意思決定に至るまでの道筋を20代半ばという年齢で見られて勉強できたこと。もう1つは、経営に携わる上で基礎体力となる会計・財務に触れざるを得ない環境にいられたこと。実は、学生時代に投資銀行でアルバイトをした経験から、数字を避けたい気持ちが強かったんですよ。それでも仕事柄、逃れられない環境に身を置けたのは結果としては良かったなと。3つ目は、経営管理の視点から新しい広告の稼ぎ方や仕組みを大局的に知れたことですね。
――新人時代、何か印象に残っている失敗はありますか?
最初に担当した得意先向けのレイバーベスドフィーの計算ミスですね。営業が1人当たりどれぐらい稼がなければならないのかを間接コストも加味した上で計算する仕事だったのですが、計算ミスをしてしまって。。ただ、広告会社がコミッションビジネスではなく、フィーなど新しい手法でどうマネタイズするかというところを学べた側面もあって、そこは勉強になりましたね。
のちに広告・マーケティングの現場に異動するのですが、「行こう」と思ったきっかけの1つは、この失敗経験でしたし、今やっている業務にもつながってくるきっかけとなる仕事だったかなと思います。
――新人時代の伊藤さんは、どのようにスキルを身に付けていったのでしょうか。
他の部署と比べて人数が少なかったので、先輩や役員の人たちの背中を見て覚えていきやすい環境でしたね。早く自分の出来る領域を広げたいと思っていたので、与えられたタスクの周辺領域にも手を挙げるようにもしていました。理解のある上司・先輩だったので、経験できる機会も積極的に作ってくれたと感じています。
――当初は10年でアカデミックに進むことが頭にあり、入社後は1、2年で転職を検討されていましたが、やめずに続けてこられたのは何が大きかったのでしょうか。
元々、10年くらいで会社を辞めようと思っていた理由の1つは、いわゆるサラリーマン的な環境、会社というハコから離れたところにいきたいと思っていたからでした。ある意味、そのど真ん中に位置するところに行くことになってしまったわけですが、体験したことで、結果的にそこの仕事が自分に合っていたと感じられたことが大きかったかなと思います。
入社3年目ぐらいで、当時100社ぐらいあったHDYグループ全体の予算編成をやるチームで、全体感を見られたのも大きかったです。1、2年目に点でしかなかった仕事それぞれのつながりが見えてきて、解像度高く感じられ始めてから、仕事がおもしろく感じられるようになりました。
大きいことをするのが好きなところがあって、一つひとつを細かくやるより、どう伝播していくのかに興味があったのも、おもしろさを見出せるようになった理由ですね。
――会社というハコで仕事をすることに対しての気持ちの変化はどういうものだったんですか?
学生時代に想像していたよりも、いい意味でウェットな「最後は人と人」という経営の意思決定がなされているところを見られたことで、悪くないなと思えるようになりました。もっとデータ寄りで合理的、官僚的な判断がされているのかなと思っていたので。総合格闘技みたいに、人と人が全身を使って仕事をする印象が持てたのが良かったです。